住まう

 家というのは結構好きだな、とつくづく思います。これは必ずしも自分の家に限ったことではないのですが、居心地のいい建物というのは、私に見ることも聞くことも強いてこず、それなのに私を居させてくれるものです。私は見ることも聞くことも好きな方ですが、心地よく居るということは、見たり聞いたりすることよりも尊く、また難しいことだと考えています。

 私にとって舞台作品というのは、新しい住まいのようなもので、はじめのうちはじろじろと眺めまわしても、徐々にその空間を自分の<場所>として認め、そこに腰を落ち着けられるといいなと思うのです。俳優たちにもそれを望んでいるし、もちろん観客のみなさまにもです。

 そうはいっても、きちんと気配りを巡らせて設計し、簡単に崩れないよう丁寧に組み立て、適度に装飾し…という地道な作業はなかなか骨の折れるものでした。骨の折れるものでしたが、そうやって一軒の家が建ったということ。そして、そこで幾人かの人間が、各々の時間を過ごしたということ。そういうことが痕跡として、どこかに刻まれ残るということ。そういう素朴な事実のために、この作品が更地の劇場に立つのであれば、それはとてもありがたいことだなと感じています。